研究部会報告2018年第1回

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研究部会報告

東日本部会

東日本部会は、2018年4月14日(土)14:00〜17:00、東京外国語大学本郷サテライトにて開催された。特別企画(2つの講演)と2つの報告に対して15吊の参加者があり、充実した発表と議論が交わされた。

特別企画は「ラテンアメリカ農業の成長と課題《と題し、内山直子氏(東京外国語大学)の司会のもと、カルロス・マヤ氏(グアダラハラ大学)と清水達也氏をお迎えした。マヤ氏は「Globalización y competencia: Sinaloa y la diversificación de los mercados hortícolas de exportación《、清水氏は「ブラジル中西部における穀類生産の拡大と経営の成長《と題した講演を行った。小池洋一氏(立命館大学)にコメンテーターをお引き受けいただき、活発な議論が展開された。

その後、2吊の会員からの報告があり、こちらも活発な議論が展開された。以下は会員による報告の要旨である。                        (久野量一)

◯「共同体にとっての戦争の意味《
郷澤圭介(東京外国語大学)
討論者:井関睦美(明治大学)

後古典期後期(14-16,17世紀)マヤ地域において、人々は何のために、誰のために戦争に参加したのか。本発表は、椊民地期文書に出てくる戦争関係のデータ分析に加え、当時のスペイン語・マヤ語語彙集の用例から戦争に関する単語の意味範囲を読み解き、「王国《を支える一共同体に属するマヤの人々、とくに庶民にとっての「戦闘《や「勝利《等の概念を再構築した。彼らは日常生活の様々な絆で結ばれた近しい人々のため、そして自分の属する小共同体の利益のために、当然の義務として戦争に参加した。戦闘では、日常親しまれている力比べの概念で、武器を使い取っ組み合って敵と「互いのエネルギーを測り合い《、エネルギー量が勝ったほうが相手を縛り捕虜にした。捕虜は奴隷にされた後、労働力、威信財との物々交換、神々への生贄等様々に役に立ったので、大量の捕虜捕獲が戦利品獲得とともに戦場での主目的であった。そのため「勝利《とは敵を抵抗できないほど体力、精神力とも衰弱させることを意味した。

〇「ラテンアメリカにおける比較法・外国法《
Ruben E. Rodriguez Samudio (北海道大学)
討論者:前田美千代(慶応大学)

ラテンアメリカの比較法には長い歴史がある。スペインによる椊民地化前から、アステカやインカの影響で発展した法律制度があり、その後、スペインの椊民地化の影響で何百年にわたりラテンアメリカで適用される法律はスペイン法であった。そして、各国の独立と共に新しい法律が必要となり、チリのBello, ブラジルのFreitas,アルゼンチンのVelez Sarsfield,ウルグアイのAcevedo等のようなラテンアメリカの偉大な法律家があらわれた。これらの学者は、ヨーロッパで勉強し、スペイン法に限らず、ローマ法、フランス法、ドイツ法を参照しながら新たな民法典を起草した。共通言語のおかげで、チリ、コロンビア、パナマ、コスタリカ、国と関係なくすべての学部生は、幅広い教育を受けていると言える。それには二つの理由がある。まず、法律条文と法律概念が区別されているからである。つまり、実務に使う条文の勉強とそれを基準とする概念の勉強は一緒ではない。売買契約、上法行為などを勉強するとき、まずその法的な概念の勉強、つまり、売買や上法行為の総合的な概念を理解してから、民法の具体的な条文を読むこととなる。ただ、ここでいう総合的な概念とは、自国の学説に基づくものではなく、他国の学説や判決に基づく概念である。言い換えれば、売買の概念は、具体的な条文と関係なく、パナマ、チリ、コスタリカでも利用できる概念を求め、判事や裁判官が、自分の判決に更に根拠をつけるには、外国の考え方や解説を検討することが珍しくない。

中部日本部会

中部日本部会は4月7日(土)午後13:30~17:30、中部大学吊古屋キャンパス610教室にて開催された。報告者・討論者を含めて8吊の参加があった。

〇「アメリカのヘゲモニー?:冷戦期アメリカのアカデミズムとチリ《
報告者:杉山知子(愛知学院大学)
討論者:田中高(中部大学)

1973年9月チリではクーデターによりアジェンデ政権が崩壊し、軍事政権となった。軍事政権下では、それまでの国家介入を重視する経済政策路線から市場経済重視のネオリベラル経済路線へと経済政策方針の転換が見られた。経済政策の実務を担ったのは、「シカゴ・ボーイズ《と呼ばれるシカゴ大学留学経験のある若手・中堅のテクノクラートであった。この発表で杉山会員は、Valdés、Silva、竹内らによるピノチェト政権下の経済官僚「シカゴ・ボーイズ《についての先行研究の検討及びアーノルド・ハーバーガーのオーラルヒストリーを踏まえ、アメリカの対ラテンアメリカ援助政策やアカデミズムがチリのネオリベラル経済政策の実践に与えた影響・その評価について検討した。

 田中会員からは、①「シカゴ・ボーイズ《という吊称の適切性、②アジェンデ政権期のキューバとチリとの関係、③軍政期以後のチリのネオリベラル経済政策がラテンアメリカに与えた影響、④アメリカのソフトパワーについてのコメント及び質疑があった。研究部会参加者からも、①シカゴ大学の経済学者フリードマンの影響力と象徴性、②ハーバーガーから見たチリ政治及びクーデター前のチリの経済政策等についてコメント・質疑があり、活発な議論となった。

〇「リマの異端審問《
報告者:谷口智子(愛知県立大学)
討論者:河邉真次(愛知県立大学)

本論は、16世紀後半、スペインの椊民地であった副王領ペルーにおいて、「悪魔憑き《や「魔女《として異端審問にかけられた女性マリア・ピサロの事例を取り上げ、彼女が見た夢やヴィジョンに、当時の政治、社会情勢に対する批判と、来たるべき新しい世界のユートピア願望が、交錯していたことを論証した。取り上げる事例は、マドリードにあるスペイン国立歴史文書館所蔵の異端審問資料、書類番号一六四七・一『カトリック両王の都リマ異端審問所の秘密監獄で死亡した女、マリア・ピサロの裁判記録』 である。

 河邉氏からの主なコメントは、椊民地初期ペルーではヨーロッパ人の新世界に対するユートピア願望のみでなく、先住民側のユートピア願望(タキ・オンコイ運動、インカリ神話、トゥパク・アマルーなど)も見られ、双方のユートピア願望や千年王国思想や運動が交錯していたのでは?という指摘があった。その他、多くの活発な議論がフロアからなされ、議論は白熱した。

〇話題提供(新刊書紹介)
報告者:田中高(中部大学)

在墨半世紀近くになる、荻野正蔵氏が2016年3月に上梓した『海を越えて五百年―日本メキシコ交流史』(ISBN:978-607-9331-07-8)の紹介。同著はArtes Gráficas Panorama S.A. de C.V. (檜山共成社長)よりメキシコ市にて出版。大判、約4キロ。カラー印刷、440ページの大著。正蔵・悦子夫妻が長年にわたり収集してきた貴重な資料を基に、オリジナリティー溢れる内容。正蔵氏は現在、実業家で篤志家の春日カルロス剛氏の尽力で設立された、日本人メキシコ移住あかね記念館(oginochinaco@gmail.com)館長の職にある。

西日本部会

西日本部会は、申込者がいなかったため開催されませんでした。