研究部会報告2004年第1回

東日本研究部会

日時:3月27日(土) 午後2時より
場所:上智大学 10号館322教室

「メキシコ自動車産業の変遷(1970-1996):GCCsスカイライン分析による測定と評価」
大澤武志(専修大学大学院経済学研究科)

Gerreffi(1994)が提唱したグローバル商品連鎖論(Global Commodity Chains)に対して、産業連関表に基づいた測定手法である「GCCsスカイライン分析」と、その図示手段にあたる「GCCsスカイライン・マップ」を開発し提示することを試みた。

「キューバ・アメリカ関係から見るキューバ系コミュニティ:マイアミ・デード郡リトル・ ハバナのフィールド調査から」
鈴木美香(上智大学大学院外国語学研究科)

本報告では、マイアミ・デード郡リトル・ハバナで行ったフィールドワークの結果と1990年代のキューバ・アメリカ関係をもとに、現在のキューバ系コミュニティ内部のキューバ意識の相違を明確に提示することを試みた。

「在日ブラジル人学校のエスノグラフィー:バイカルチュラリズムの可能性を探る」
拝野寿美子(放送大学大学院文化科学研究科)

現在、ブラジル人学校は60校以上存在し、児童・生徒は6千人を超える。本報告は、その文化化エージェントとしての機能と可能性を、文化人類学的視点と方法を援用して考察した異文化間教育研究の一例である。

「女性の大衆運動と政府、NGO の援助:コメドール・ポプラール 『生き残り』から『持続化』へ」
篠江みゆき(筑波大学大学院地域研究研究科)

本論文は女性による大衆運動への有効な援助を考えていくにあたり、ペルー共同炊事場運動を事例として、運動の持続化に及ぼす援助の影響を明らかにし大衆運動の持続化における外部援助団体の役割を議論したものである。

「ブラジルにおける都市低所得層向け住宅政策―1990年代半ば以降の政策とプログラムの変化を中心に」
谷口恵理(筑波大学大学院地域研究研究科)

90年代半ば以降ブラジル住宅政策は、社会政策理論のパラダイム転換と共に、その方針を変化させている。本研究では、より持続的で効果的なプログラム運営を実現するため「低所得層」への優先的な支援政策が鍵となることを主張した。

「情報通信技術と社会開発―メキシコの教育における可能性と限界」
高畠千秋(筑波大学大学院地域研究研究科)

メキシコの教育における情報通信技術(Information Communication Technologies,ICT)の利用を通じ、社会開発におけるICTの有用性に関してより深い議論をする事を試みた。その中で主に、メキシコの教育の抱える問題に対するICTの成果を検証した。

中部日本研究部会

日時:3月27日(土) 午後2時より
場所:名古屋大学国際開発研究科第1会議室

「ラテンアメリカにおける『法と開発』研究/運動―『無垢な介入』と『法的帝国主義』の狭間」
川畑博昭(名古屋大学)

ラテンアメリカにおける「法と開発」を扱った本報告では、1960年代に展開された米国のラテンアメリカ諸国に対する「法支援 legal assitance」に焦点を当て、当時のブラジルおよびチリ、現代のペルーの事例を紹介した。その中で、主権国家を前提としての「法」という国家の基本に関わる分野における「支援」は、常に「介入」という側面を随伴する性格のものであることを踏まえた上で、60年当時のブラジルやチリ国内において法制度改革への強い要請が存在した事実についても触れた。それを踏まえた上で、本報告の主題の正確な把握のためには、当時の冷戦という「国際政治」の背景とラテンアメリカ諸国内の「統治社会構造」の2つの視角が前提に置かれなければならない。そのように見たときに、当時の米国による「法支援」は「無垢な介入」という主観的意図と「法的帝国主義」という客観的側面の「狭間」にあると評価し得ることを指摘した。

「17世紀リマの異端審問―フアン・バスケスの事例」
谷口智子(愛知県立大学)

本発表は、植民地時代スペイン支配下のペルーにおいて「魔術師」と名付けられ、異端審問にかけられた一人の民間治療師フアン・バスケスについてのテキスト解読を通して宗教接触の葛藤と異文化理解の問題を考察した。
フアン・バスケスはリマで有名な治療師で、無償で治療を行い、スペイン人を含め多くの人々が癒され、支持者も多かった。バスケスは自らをカトリックであると信じ、そう主張していたが、彼の宗教体験や治療は、カトリックと先住民宗教の混淆したものであり、異端審問の判事は、「偶像崇拝的行為」、「迷信・魔術」と見なした。
なぜこのような事件が起こったのか、その理由をいくつかのアプローチにそって考察した。
まず、バスケスを「魔術師」と規定する支配者側の論理を、16世紀スペインの異端審問官ペドロ・シルエロの『迷信・魔術についての覚え書き』に基づいて考察した。シルエロの著作は新大陸で布教する聖職者にも説得力をもって読まれていたからである。
また、バスケスの宗教体験と実践を、先住民宗教の象徴体系のコンテキストから読み直した。バスケスは今日クランデーロと呼ばれる治療師の系譜に属すると考えられるが、その治療の方法から、インカ時代にはハンピヨックと呼ばれた薬草治療師やイチェリと呼ばれた告解師にそのルーツがあると考えられるからである。
また、バスケスが巻き込まれた裁判において彼をめぐる二つの異なるカトリシズムの葛藤を表現し、それを「エリート」と「民衆」というカテゴリーに基づき再検討した。
最後にバスケスの特徴である宗教の混淆化の意味をシンクレティズムというカテゴリー批判と、クレオリゼーションの積極的意味付与によって分析し、宗教接触や宗教的混淆化による現象の創造性を論じた。さらに、バスケスの事件をそのような民衆宗教の一つの創造的現れだと再考することによってその意味世界の理解を試みた。

西日本研究部会

日時:2004年4月17日(土) 午後2時より
場所:神戸大学

「ノスタルジアを生きる、ディアスポラを夢見る―キューバの日常生活における移民、ユーモアとエロス」
田沼幸子(大阪大学大学院生、非会員)

経済危機後のキューバにおいて見られる人びとの語りのなかから、ノスタルジー、エロス、ユーモアの三つの側面に焦点を当てて発表した。現在、キューバでは、「昔」の方がよかった、というノスタルジーに満ちた語りがしばしば聞かれる。1959年の革命以後、約束されてきた生活の向上はソ連の崩壊とともに崩れ去り、キューバの未来は可能性のあるものとして想像されていない。その一方で、現在でも、マスメディアや教育をはじめとして言論統制が敷かれている。こうしたなか、人びとは、親しい間柄同士で、cuento(小話)をして、日々の不満や鬱憤を晴らす。その中には、性的なものも多く含まれ、辛辣さやおかしみをいっそう際立たせている。Cuentoには、物語だけでなく、嘘という意味もおり、キューバの社会主義システムや、革命による救済の物語も同じくcuentoでしかない、という小話もある。

「アルゼンチンのカレンシー・ボード制の挫折について」
西島章次(神戸大学)

アルゼンチンでは兌換法に基づく「カレンシー・ボード制」が1991年4月に導入されたが、一方でそれまでの高インフレを沈静化させたものの、2002年の通貨危機とともに崩壊するにいたった。その理由として、アルゼンチンのカレンシー・ボード制が、不完全な形でのカレンシー・ボード制であったこと、財政規律を保証しなかったこと、実質為替レートが過大評価で推移したこと、カレンシー・ボード制下での対外調整が困難であり、厳しい引き締めが社会的な不安定性を増大したこと、政府債務の多くが海外の投資家によって保有され、対外債務としての脆弱性を有していたことなどが、重要である。本報告では、こうした理解のもとで、国内均衡と対外均衡モデルを用いてアルゼンチンのカレンシー・ボード制の崩壊の過程を議論した。