研究部会報告2025年

東日本研究部会中部日本研究部会西日本研究部会

東日本研究部会

東日本研究部会は2025年12月7日(日)13:30から16:00にわたってオンラインで開催された。参加者は報告者、討論者、司会を含めて計12名。第1報告者の岡部会員と第2報告に対する討論者の藤井会員はメキシコからの参加であったが、それが可能になったのはオンライン開催による利点と言えよう。終盤はふたりにとっては深夜に及ぶ結果になったが、積極的に意見を述べていた。感謝する次第である。

〈第一報告〉
USMCAレビューを前に揺れるメキシコ憲法:司法・エネルギー改革の行方

発表者:岡部拓(グアダラハラ大学)
討論者:内山直子(東京外国語大学)

岡部報告は、ロペス・オブラドール政権によって実現された憲法改正のうち特に司法制度改革とエネルギー政策に焦点を当て、それが見直しを控えたUSMCA協定にどのように影響し得るかを考察したもの。改正後の司法制度の実際の運用具合などを紹介しつつ、それがUSMCA参加の他の2国からの信頼を勝ち得るかなどの問題を論じた。討論者の内山直子(東京外国語大学)会員は憲法改正には他にも重要なポイントがあること、また、USMCAに影響し得る他の要素もあることなどを指摘して米墨加三国関係の展望をさらに立体的にした。

〈第二報告〉
ホルヘ・イバルグエンゴイティアの脱ローカル化の試み:遺稿Isabel cantabaの構想分析を中心に

発表者:栗原佑紀子(東京大学・院生)
討論者:藤井健太朗(コレヒオ・デ・メヒコ)

メキシコでは成功した作家でありながら同時代のラテンアメリカ文学のブームに乗れていないとの自覚を持つホルヘ・イバルグエンゴイティアが、スペインや英米への進出に腐心したさまをアーカイブ研究から浮き彫りにした。この報告に対し、討論者の藤井健太朗(コレヒオ・デ・メヒコ)会員は同年齢のカルロス・フエンテスや他の作家たちとの対比からイバルグエンゴイティアの位置づけをより明確にし、イバルグエンゴイティアなどのユーモアに特長のある作家がブームでは取り残される傾向にあったことなどを指摘した。

ふたつの報告は専門を異にするものであったが、参加者はいずれの報告に対しても意見や感想を述べるなどして積極的な交流が見られた。

柳原孝敦(東京大学)

中部日本研究部会

日本ラテンアメリカ学会中部日本研究部会では、以下の日程・内容で研究会を開催した。時差の関係で午前と午後にオンライン(Zoomミーティング)で行われた。年末の忙しい時期であり、参加人数は午前の部は5名、午後の部は6名と少人数であったが、いずれの会でも討論者が事前に報告者の原稿を読み込み、丁寧なコメントと質問をしたため、大変盛り上がった。さらにどの参加者も忌憚のない質問やコメントをしたので、充実した内容となった。各研究会後には30分ほど有志によるオンライン懇親会も開催され、密度の濃い研究会であった。オンラインを利用しているので、時差の調整はあっても、午前は日本各地とメキシコ、午後はスペイン、エクアドルと日本各地を結んで交流でき有意義な研究会となった。詳細は以下の通りである。参加した皆様の貢献に感謝申し上げる。
中部日本研究部会担当理事:浅香幸枝/杉山知子
運営委員:丹羽悦子

日 時:2025年12月20日(土)
午前の部 自著紹介 9:00~10:30(メキシコ時間 18:00~19:30)
午後の部 研究報告 13:00~14:30(マドリッド時間 5:00~6:30、キト時間 23:00~24:30)
開催形態:オンライン(Zoomミーティング)

〈自著紹介〉
自著『オートポイエティックな言語学習による変容
――学びが楽しくなる日本語教育をめざして』について

講演者:新井克之(朝日大学留学生別科)
討論者:岸大介(グアダラハラ大学)

本発表では、言語学習の根源的な意味を考察した発表者の自著が紹介された。中米グアテマラで “趣味”として日本語を学ぶ学生と青年海外協力隊の日本語教育関係者約40名を対象に、PAC分析とライフストーリーインタビューを用いた調査を行い、関係者の内面に焦点を当てた調査結果と社会理論とを結びつけ、就職や進学といった “実益”に直結しない言語学習の意味を考察した。
討論では、岸グアダラハラ大学教授から、青年海外協力隊が現地語を学び現地語で教える姿勢や楽しさを重視する点について、メキシコの事例を交えた指摘があり、本研究が言語・文化・教育・心理の各領域を横断する画期的なフィールド研究であるとの評価が示された。また杉山会員や浅香会員からは、メキシコ・グアテマラにおける中国や日本との関係、グアテマラ出身の作家、エンリス・ゴメス・カリーリョの影響などによる歴史的交流に関する質問や情報提供があり、発表者は当時の中国の影響の限定性や、日本とグアテマラの複雑な相互交流について見解を述べた。グアテマラ長期滞在経験のある参加者も交えて、議論は終始和やかに進み、研究交流の場ともなった。

〈研究報告〉
Entre la securitización y la antipolítica. Discursos y disputas en el marco de la campaña
por la Consulta Popular del 16N del Ecuador

報告者:Juan Arturo Mila Maldonado(Universidad de Alicante, España)
Jhonatan Andrés Lara Aguiar(Facultad Latinoamericana de Ciencias Sociales, Sede Ecuador)
討論者:新木秀和(神奈川大学)

Este estudio analiza la polarización discursiva en la campaña digital de la consulta popular del 16 de noviembre de 2025 en Ecuador, en un contexto de alta conflictividad social. Mediante el Análisis Crítico del Discurso(ACD)de spots en la plataforma X, y aplicando los modelos de Fairclough(2003)y el Cuadrado Ideológico de Van Dijk(2009), se examinó la disputa hegemónica entre el oficialismo y la oposición. Los resultados revelan dos macroestructuras contrapuestas: la tendencia del “SÍ” construyó una narrativa soteriológica que, mediante la metáfora de la “receta” y la estética militar, presentó la securitización como única vía de salvación, deslegitimando la justicia indígena a través de la sátira. En contraste, el “NO” enmarcó al gobierno bajo la metáfora del “vendedor de pócimas”, utilizando la ironía y la simulación periodística para denunciar la improvisación gubernamental y defender derechos colectivos. Se concluye que la campaña digital no solo disputó votos, sino que confrontó dos lógicas de legitimación: la emotividad patriótica del orden policial frente a la validación de datos y la identidad comunitaria.
Además de la moderación de Sachie Asaka, el encuentro contó con las intervenciones de Hidekazu Araki, especialista en estudios ecuatorianos, junto a los académicos Katsuyuki Arai y Tomoko Sugiyama. El debate profundizó en la victoria del ‘NO’, analizando la discrepancia frente a los sondeos que proyectaban un triunfo del oficialismo, así como las implicaciones constitucionales de la instalación de bases militares extranjeras. A partir de las sugerencias de los expertos, se destacó la pertinencia de extender el análisis al periodo postelectoral y examinar el uso de canales oficiales para posicionar el ‘SÍ’. Se enfatizó que las plataformas digitales, caracterizadas por la inmediatez y la emotividad en detrimento del raciocinio, propician escenarios de alta polarización y populismo. En respuesta, la investigación adoptará un diseño mixto,incorporando un componente cuantitativo para analizar la actividad en la red social X de seis cuentas clave: el bloque oficialista(@DanielNoboaOk, @Presidencia_Ec), el correísmo(@LuisaGonzalezEc, @RC5Oficial)y el movimiento indígena(@LeonidasIzaEc, @CONAIE_Ecuador).

西日本研究部会

2026年1月11日(日)の13:00から17:30にわたって、以下の内容で2025年度の西日本研究部会を開催した。対面の参加者は発表者と討論者を含めて16名、オンライン参加者は発表者と討論者を含めて21名であった。
どの発表に関しても活発な議論が行われて充実した研究部会となった。また、懇親会も16名参加で楽しく過ごすことができた。
西日本研究部会担当理事:禪野美帆
運営委員:福間真央

〈第一報告〉
La Opinión Pública en el marco de las Relaciones Internacionales de América Latina

発表者:Juan Arturo Mila Maldonado(Universidad de Alicante)〈対面〉
討論者:Iván López-Díaz(Universidad Autónoma de Madrid, estudiante de doctorado)〈オンライン〉

Este trabajo analiza la relación entre la opinión pública y las relaciones internacionales en América Latina, desde una perspectiva interdisciplinaria que integre los campos de la comunicación, la ciencia política y los estudios internacionales. El estudio parte del reconocimiento de que la opinión pública, tradicionalmente analizada en contextos nacionales, ha adquirido una dimensión transnacional en el marco de la globalización, las tecnologías digitales y la diplomacia pública.
A través de una revisión sistemática de literatura académica reciente(2020–2025)—a partir de la metodología Prisma—en la base de datos de Scopus, se busca identificar cómo se ha abordado la interacción entre opinión pública, relaciones internacionales y el contexto latinoamericano en los últimos cinco años. El objetivo es mapear tendencias, vacíos y líneas emergentes de investigación, así como discutir el rol de los medios, las redes sociales y los actores políticos en la configuración de climas de opinión que inciden en la política exterior y en la imagen internacional de los Estados. Esta propuesta aspira a aportar en la construcción de líneas de investigación que relacionen la opinión pública con la disciplina de las Relaciones Internacionales en América Latina, cuestión poco explorada hasta la fecha.
Las intervenciones del comentarista Iván López-Díaz se centraron en analizar los cuatro ejes temáticos de los artículos de investigación: 1)hegemonías y nuevos actores globales; 2)consenso social y acción exterior; 3)comunicación, propaganda y medios, y 4)asuntos sociales, ambientales y transnacionales. Asimismo, el autor profundizó en las limitaciones y oportunidades de investigación detectadas en el estudio.
La presentación contó con la participación de académicos japoneses vinculados a los estudios de América Latina, quienes señalaron la necesidad de expandir estas investigaciones hacia otros idiomas, como el inglés y el portugués. Si bien este artículo prioriza la producción científica en castellano para ofrecer una alternativa al predominio del inglés en la divulgación científica, se reconoce la pertinencia de abordar a futuro estudios de autores latinoamericanos publicados en dicha lengua para favorecer su difusión. Asimismo, se destacó la importancia de integrar la singularidad de Brasil como eje comparativo frente a los países hispanohablantes, dada la histórica profundidad de sus vínculos culturales.

〈第二報告〉
民主主義体制と経済格差:ペルーの事例を対象とした予備的考察

発表者:高橋光一(神戸大学博士後期課程)〈対面〉
討論者:磯田沙織(神田外国語大学)〈オンライン〉

本報告は、現代の民主主義の後退という世界的潮流を背景に、ペルーを事例として、民主主義体制と経済格差の関係性を再考した。具体的には、民衆が民主主義に抱いた経済的不平等の是正という願望とそれが達成されない現実への不満という、民衆側の視点に着目した。ペルーにおいては、2001年の民主化復帰後も都市部と農村部の構造的格差が存続しており、この成果の欠如が民主主義への不満を醸成していることを指摘した。
従来、先行研究では、こうした機能不全の原因として、政党法の緩和や拙速な地方分権といった政治制度設計の不備が論じられてきた。本報告ではこれらの知見を踏まえつつ、制度を運用すべき主体の不在、すなわち政治勢力の不在という視点を提示した。地方の民意を組織化し、政策へと反映させる中間的な政治的主体が形成されない構造こそが、格差是正を阻む根源的な要因であるとの仮説を立てた。今後の研究では、この政治勢力の不在をベラスコ軍事政権期に着目した歴史的アプローチから解明する旨を示した。
討論者からは、現在主要な争点となっている治安対策と構造的な経済格差の繋がりを明確化する必要があるとのコメントをいただいた。併せて、「政党なき民主主義」という言葉が体現するように、政治勢力が不在という課題は地方に限ったものではないのではとの建設的な助言があった。フロアからは、民主主義の質や民主主義に対する認識に関する議論の要諦を押さえる必要性について、また軍政期に着目する研究上の意義について、大変重要なご指摘をいただいた。

〈第三報告〉
米・ベネズエラ関係とトリニダード・トバゴの移民受入れ対応

発表者:鈴木美香(福岡大学)〈オンライン〉
コメンテーター:坂口安紀(ジェトロ・アジア経済研究所)〈オンライン〉

本報告は、トリニダード・トバゴ(以下TT)と米国、ベネズエラの関係がTTのベネズエラ移民の受入れに与える影響を明らかにすることを目的にしている。TTでは、2025年5月にパサード=ビセッサーが10年ぶりに首相の座に返り咲いた。同政権は、米トランプ政権が同年8月下旬に開始したカリブ地域での軍事作戦を支持し、米国との関係緊密化を図る一方、これまで国境地帯のエネルギー開発を進めてきたベネズエラとは、同作戦を機に急速に関係が悪化した。自国に来るベネズエラ移民に対しては、非正規移民の強制送還の徹底を打ち出したものの、2025年12月末には2019年に実施したベネズエラ移民の在留登録の対象者を非正規移民にも拡大すると発表した。
本報告では、文献調査およびTTでの現地調査から3点を明らかにした。第一に、米・ベネズエラ関係がTTの外交政策や移民政策に与える影響は大きく、TTの国民やベネズエラ移民の間では、米国の軍事作戦やポスト・マドゥーロのベネズエラに対し期待と不安、懸念が交錯している。第二に、トランプ政権の対外援助政策の見直しによりTT国内の国際機関やNGOが活動縮小を余儀なくされ、ベネズエラ移民支援に影響が出ている。第三に、パサード=ビセッサー政権が移民の強制送還促進という強硬姿勢と在留登録の拡大という寛容姿勢を示したことで、同政権の移民政策の一貫性の欠如が露呈した。
討論者からは、TTは英語圏のためベネズエラ移民の受入れが困難である点を強調すべき、その上で主要受入れ国との対応策の相違点を明らかにすべきとの指摘があった。また、今後の研究課題として、ペトロカリブ加盟国が含まれるカリブ共同体(カリコム)の中でのTTの位置付けを考察する研究について提案があった。このほか、米国の軍事作戦に対する一般のTT人の反応について質問があり、TTの治安改善のため同作戦を支持する声と、国際法違反だとして懸念を示す声がある旨回答した。フロアからは、ベネズエラと領土問題を抱えるガイアナとTTの関係について質問があり、TTは領土問題に関してはカリコムの一員としてガイアナを支持する立場を取っているほか、両国とも米国の軍事作戦への支持を表明していることから共通の利益を有する旨説明した。

〈第四報告〉
アルゼンチン北部の大豆栽培:環境史的視点から

発表者:伊香祝子(慶應義塾大学他非常勤講師)
コメンテーター:清水達也(同志社大学)

本発表では、世界最大の大豆油・大豆ミールの輸出国であるアルゼンチンにおいて、1990年代後半以降に急増した遺伝子組み換え大豆生産、とくに北部地域で進行した「農業フロンティアの拡大」が地域社会と環境に与えた影響を、文献調査にもとづき検討した。ここでいう北部とは、「グラン・チャコ」と呼ばれるエコリージョンに属するサルタ州東部からフォルモサ州、サンタフェ州北部、コルドバ州北部までの地域を指す。
北部は先住民人口が比較的多い地域であるが、チャコ州西部やサルタ州東部のいわゆる「乾燥チャコ地域」では、大豆栽培に伴う森林伐採や、パンパ地域を追われた牧畜業の進出により、先住民との土地紛争が顕在化している。また、物理的・心理的影響が生じているとする研究も確認された。
討論者からは、パンパ地域における遺伝子組み換え大豆生産の拡大にはネットワーク型生産という新たな生産形態が寄与し、それが農村共同体の崩壊につながっているとの現地指摘があること、さらに研究方法論や論点の整理に関する助言をいただいた。
フロアからは、特定の先住民グループへの調査予定、および先住民と政府・国際機関との関係に関する質問が寄せられた。前者については、研究対象であるアルガロボ(Neltuma spp.)の分布域が広いため、将来的にはコムやウィチの女性団体からの聞き取りも視野に入れつつ、まずは現地での情報収集や野外観察から着手したいと考えている。後者については、2022年の人口調査で初めて先住民言語項目が導入されたこと、また2020年には世界銀行の融資を受け、北部5州で小規模生産者・先住民・農民コミュニティを対象とした持続可能な森林管理プロジェクトが推進されていることがわかっている。
今後は、こうした政策的取り組みにも留意しつつ、環境変化と社会的影響の関係をより丁寧に分析することで、アルゼンチン北部における在来知の活用可能性を探っていきたい。

〈第五報告〉
1970年代ブラジルにおける民主化の胎動

発表者:橘生子(津田塾大学)
コメンテーター:村上勇介(京都大学)

ブラジルで1964年になぜ民主体制が崩壊し、なぜ政治的弾圧が容認されたのかを論じた博士論文書籍の概要と、その関連で進行中の研究について報告した。本書では、共産主義のゲリラと決めつけられて弾圧された草の根的な組織「イレブン(Grupos de Onze)」に焦点を当て、現地の一次資料と米国外交通信を照合した。リーダーのブリゾーラ議員は知事時代に州農地改革に着手し、1961年に軍のクーデタの試みに抵抗運動を率いた。同議員はサッカーチームと同様に11人の仲間から成る「イレブン」の結成を呼びかけた。都市中間層の仲介により、未だ政治参加を果たしていない各地の農民が「イレブン」を組織した。改革に反発する保守派は、連続爆弾テロ事件の黒幕は同議員と主張して「イレブン」の脅威を捏造した。政治的弾圧が社会で容認された背景には、ゲリラの脅威ではなく保守派軍民による脅威の演出があった。「イレブン」が暴力に訴える意図も能力もなかったという本書の発見は、しかし、なぜ同議員が少数ながら存在した過激派の支持をも得ていたのかという新たな疑問を生んだ。発表者は、テロ容疑で逮捕された人物の希少な回顧録を入手し、解明に取り組んでいる。仮説として、被弾圧者が武装闘争の選択肢を捨て、知的レジスタンスの道を選んだことが、民主化に貢献したのではないかと考えられる。
討論者から、「実質的民主主義」の内容について議論を精緻化することにより本研究の政治学的な意義が深まる可能性などの助言を受けた。フロアから、軍政長期化について更なる議論が必要との指摘があり、また、本研究が用いた米国公文書の電子化をめぐる状況について質問がなされた。