西日本部会研究会開催のご案内(討論者確定)

先にお知らせした西日本部会研究会につき、討論者が確定しましたので、あらためてプログラムをお知らせします。報告者の都合ならびに報告の連関性から、前回お知らせしたプログラムとは、報告順が変わっていますので、ご注意ください。

日時:2015年4月18日(土)13:30~(13:00開場)
場所:京都大学地域研究統合情報センターセミナー室(京都大学稲盛財団記念館2階212号室、アクセスマップ:http://www.cias.kyoto-u.ac.jp/access/

報告:
1. 石田智恵(日本学術振興会特別研究員PD)
「『伝統の破壊』と『社会への統合』のあいだで
―アルゼンチン『日系失踪者家族会』の活動から―」
<報告概要>
1970年代後半アルゼンチンの軍事政権によって生みだされた「失踪者」の問題は、「政治暴力」「人権問題」「国家テロリズム」といった主題のもとで論じられることに暗示されるように、「移民」や「民族」「人種」(差別)の問題として扱われることはほぼない(あるいはこれらの論点とは無関係とされる)。これに対し本報告は「失踪者」とその親族のなかで日本人移民とその子孫に焦点をあて、移民国アルゼンチンの見過ごされがちな一面として、出自の問題が「失踪者」をめぐっていかに見えないかたちで「国民」を抑圧し得てきたかを論じる。具体的には、「日系失踪者家族会」の活動経緯を紹介しながら、かれらが日系コミュニティの「伝統的規範」にいかに直面してきたか、家族会の経験に関してコミュニティの内外でいかなる差異がみられ、またそれらにどのような変化がみられるかを、聞き取りなどの調査に基づいて報告する。
討論者:林みどり(立教大学)

2. 鈴木紀(国立民族学博物館)
「展示の中のマヤ文明とマヤ民族
―メキシコ、グアテマラの博物館比較―」
<報告概要>
現代のラテンアメリカの人々にとって、先スペイン時代の文明と現代の先住民族の関係をどう理解するかという問いは、単に考古学、民族学的好奇心の問題ではなく、自分自身のアイデンティティ構築の問題でもある。マヤ・アステカ・インカ等の著名な文明は文化遺産として一般に広く賞賛されているが、その遺産は、だれが、どの程度、受け継いでいるといえるのだろうか。
 本報告では、科研の新学術領域研究「古代アメリカの比較文明論」の一部をなす「植民地時代から現代の中南米の先住民文化」研究の概要を示す。また、その中で発表者が実施している博物館研究の一端を提示する。具体的には、メキシコおよびグアテマラの人類学、考古学、民族学関係の博物館におけるマヤ文明とマヤ民族の展示に着目し、両者の間に連続性を認めているか否かを比較する。また連続性を認めない場合のマヤ文明の意味、連続性を認める場合のマヤ民族の意味もあわせて考察したい。
討論者:芝田幸一郎(神戸市外国語大学)

3. 本谷裕子(慶應義塾大学)
「織りと装いのいとなみが紡ぐ女性のインフォーマルなネットワークとその変容
―グアテマラ高地マヤ先住民女性の事例より―」
<報告概要>
グアテマラ中西部高地に暮らすマヤ先住民女性は、先スペイン期起源の織機で布を織り、その織布を衣として装う。この機織で独自の衣文化を育む村の数は約八〇村に及び、出身村や出自の違いが服装から判別されることからも明らかなように、この地では織りと装いのいとなみの果たす役割が極めて重要視されている。
本発表は写真資料と実物資料をもとに、ナワラ村の女性用上衣ウイピルの変遷(19世紀末から現在)を辿る。そのうえで、布に織られた紋様、村人に紋様の共有をうながす先祖伝来の言説、さらには織りと装いが紡ぐ女性のインフォーマルなネットワークの変容過程をウイピルの変遷から読み解く。そのダイナミズムには、1950年代のハイウエイの敷設以後、近代化や国家権力が村社会に急激に浸透していく中で、女性の機織りと織布が支えてきた衣文化とそれに付随する女性の紐帯もまた近代的なものへと改編されていくさまが浮き彫りとなる。
討論者:禪野美帆(関西学院大学)

4. 額田有美(大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程)
「『先住民裁判』について考える
―コスタリカ先住民ブリブリの事例より―」
<報告概要>
本発表では、コスタリカの先住民ブリブリの居留地において実践されている慣習法裁判所(Tribunal de Derecho Consuetudinario)の意味・役割について、主に現地調査によって得られた民族誌的データを用いながらその意味・役割を考察する。
 ラテンアメリカ諸国に関する近年の研究では、一元的な裁判のあり方を問い直す「先住民裁判」について議論がなされるようになってきた。先行研究では、「先住民裁判」を切り口に「国家」を捉えようとする試みや「先住民裁判」に付随する実践的課題が、各国の事例描写をもとに人類学や政治学の視座から論じられてきた。
「白色神話」が根強く、「先住民裁判」関連の先行研究で言及されることが極めて少なかったコスタリカにおいても、「先住民」8民族のうち最大のグループとして知られるブリブリの先住民居留地に慣習法裁判所が存在する。本発表では、この慣習法裁判所をコスタリカという特定の社会文化的文脈の中で捉えつつ、当事者である居留地住民の視点に着目してその意味・役割を検討する。
討論者:小林致広(京都大学名誉教授)