会員新刊情報
初谷譲次 著 『アメリカス世界を生きるマヤ人―向こう岸からのメキシコ史―』
むさし書房、2009年12月、266頁、ISBN978-4-8385-0973-7 3,000円+税
この度、むさし書房から『アメリカス世界を生きるマヤ人―向こう岸からのメキシコ史―』を刊行いたしました。20年以上にわたって書きためてきた論文をまとめたものですが、植民地支配から現代までのユカタン・マヤの通史ともなっています。映画『アポカリプト』『2012』等、イメージのみが消費されがちなマヤのひとびとの歴史的主体性に光をあてた作品にしあがっております。ご一読いただければ幸いです。
「はじめに」から抜粋
ユカタン半島の熱帯雨林を原料供給地としてねらう米国資本、それを積極的に利用しながら国家の経済的・政治的統合をはかるメキシコ政府、そしてその攻撃を前になすすべもなく巻きこまれていく先住民といったイメージを受け入れることは、いともたやすい。そして、このイメージはたえず歴史の客体として「近代」や「資本」に翻弄され取り込まれていくだけの先住民の姿という500年の歴史にも敷衍されてしまうのである。外部から侵入してくる「資本」に対して、マヤたちはどのような判断をくだし、どのように対応したのだろうか。先住民共同体という非資本主義的社会と対峙・共存しながら近代化を推し進めざるをえないメキシコのような国の歴史を眺めるときに、(外国)資本や政治的統合といった外圧に接する瞬間の先住民社会の対応のありようをていねいに見ておかないと、そこにあるはずの先住民の歴史的主体性を見落とし、歴史に翻弄されるだけの客体としての先住民のイメージがひとり歩きしてしまう危険がある。
目次
はじめに
第1章 ユカタン農村社会の変遷―征服からカスタ戦争まで(1528~1847年)
第2章 プレゲラ期(1821~47年)における犯罪の諸相
―カスタ戦争の人種的憎悪=原因説の相対化
第3章 ユカタン・カスタ戦争(1847~1901年)
第4章 フスト・シエラ・オレリーの対米交渉(1848年)
―協調者の帝国的言説
第5章 カスタ戦争後のクルソー・マヤ
第6章 20世紀キンタナロー州におけるチクル採集産業
第7章 キンタナロー州マヤ系村落の年間生活サイクルについて
―公文書館におけるフィールド調査
第8章 19世紀後半ユカタン半島におけるエネケン産業の発展(1853~1902年)
―伝統的アシエンダからエネケン・プランテーションへの移行
第9章 ディアス期メキシコにおける地方オリガルキーについて
―ユカタン州モリナ家のエネケン産業支配
第10章 構築される反乱―消費されるマヤ・イメージ
資料1 ユカタン・カスタ戦争のインディオ指導者の書簡
資料2 ユカタン・カスタ戦争における十字架の託宣(1850年)