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大貫良夫・加藤泰建・関雄二 編著 『古代アンデス 神殿から始まる文明』

朝日新聞社(朝日選書)、2010年2月、1400円(税別)

本書は、東京大学文化人類学教室のスタッフが中心となり、1958年に結成したアンデス考古学調査団が、2008年に50年を迎えたのを記念して東京のよみうりホールで行ったシンポジウムの内容を収めたものである。
序章では、50年間にわたり、終始一貫して研究対象としてきた形成期(紀元前3000年~西暦紀元前後)とよばれる文明初期の社会の特徴として、祭祀建造物、いわゆる神殿とそれに関わる活動がある、という点を示し、祭祀の視点からアンデス文明史全体を概観する。
第1章では、50年間の活動の大半に関わってきた大貫良夫(東京大学)が、1960年代に、世界的な発見として日本調査団の名前を知らしめることとなったコトシュ遺跡を皮切りに、1980年代までの調査を振り返る。そこでは、「神殿更新」説という、経済活動が活発化する以前に祭祀活動が発展していったとするアンデス独自の文明形成過程を日本調査団が提示していった過程が詳述される。
第2章では、1988年より16年にわたる長期的な調査と遺跡周辺住民の参加を組み込んだ文化遺産保護と活用を実施してきたクントゥル・ワシ遺跡について、加藤泰建(埼玉大学)がまとめている。黄金製品を含む墓の発見ばかりでなく、副葬された奢侈品から、広範囲の祭祀ネットワークが形成されていく過程が解説される。
第3章は、昨夏、黄金製品を含む墓が発見され、世界中で報道されたパコパンパ遺跡について関雄二(国立民族学博物館)が解説する。50年を経て、研究者の関心も移り、古代社会における権力の発生をテーマに、金とともに埋葬された女性エリートの誕生過程と社会発展における意味が語られる。
最後に、座談部分を設け、シンポジウムにおけるパネルディスカッションを収録した。ポンペイ研究の第一人者である青柳正規西洋美術館長、ナスカの地上絵の保存活動に取り組む楠田枝里子両氏を迎え、考古学の楽しさ、博物館の未来像などを語り合っている。これに井口欣也(埼玉大学)や坂井正人(山形大学)による近年のアンデス考古学研究の動向などがコラムとして付け加わる。

目次

はじめに
序章  古代アンデス文明とは何か      関雄二
第1章  アンデス文明形成期研究の50年    大貫良夫
第2章  大神殿の出現と変容するアンデス社会   加藤泰建
第3章  形成期社会における権力の生成     関雄二
座談  文明との対話    青柳正規・楠田枝里子・大貫良夫・関雄二  加藤泰建(司会)
コラム